2011年2月4日金曜日

上流から下流まで

そのひとつの業界を一本の川に例えれば非常に分かりやすい。
金型の材料の販売は川の遥か川上にある。川上から、竹で編んだ
船を流し、本来なら、流しっぱなしでいいところかも知れないが、
その船が、沈んだり、滝に落ちたり、石の影でとまってしまったり、
そういうことがあるかもしれない。

材料は、加工され、熱処理されというように下流に向い、或いは
表面処理まで施されて、河口のエンドユーザーにたどり着く。

材料屋、熱処理屋、加工屋、表面処理屋というように、それぞれの
業者にとって、川上から流れてくる材料の良し悪しを評価する
基準は大きく違う。

熱処理屋にとっては、焼入れにて、歪まない、割れない、硬度が入り
やすいという評価基準があるが、加工屋にとっては、何より削りやすい
寸法が出しやすい、という評価基準があり、表面処理屋にとっては
表面処理がつきにくいなんて材料は困るという評価基準を持っている。
しかし最下流にいるエンドユーザーにとって、何より、寿命が持つ、
メンテナンスがしやすいということが大変重要である。この鋼という
か素材を語るそれぞれの立場での語り口は、エンドユーザーにとって
最も責任の所在が不透明に感じられることとなる。

以前、診断君は材料屋であり、熱処理屋であり、表面処理屋である
という会社におり、特に表面処理を販売するに当たっては、それより
上流の全てを押さえることが、安定した売り上げの要素となると学んだ
ものである。もし加工屋さんまでしてしまえば、材料からエンドユーザー
に至るこの川の全てを独占し、川に誰も近づくことができなくすること
が可能になる。


しかし、加工屋さんは加工屋さんで大事な材料屋、熱処理屋の
お客さんである。 が、我々はその周りを包囲した形で商売をして
いるので、実は大変憎まれうとまれているのだ。

今日、表面処理の関係でお会いしたお客さんがいい例だ。
以前診断君が開拓したある加工の仕事、それは本来熱処理や
表面処理や、材料の業者がやるべき仕事なのか?とお怒り
であった。全くそのとおりである。この仕事においては、ローカル
の加工屋を取り込み、顧客から技術指導を受け、その川の
流れの全てを独占する形態で受注をしたのである。

自分はいい仕事をしたと思っていたその仕事について、
果たして売り上げ優先で、仕方なかったとしても、やるべきでは
なかった・・・と自分を恥じた。今も続くその仕事であるが、
熱処理屋が加工業などすべきではない。何故大事なお客さんから
仕事をとるのか?その前に、やることはいくらでもあるじゃないか?
戦略営業を標榜し、誰も近づけないようにその川の上流から下流
まで堤防をはり、ちょっとやそっとのミスも吸収できるようにした。
そこまでしたにも関わらず、社内で仕事の取り合いをしたため、
品質の横展開が出来ず、日本側で大きな不良を出した。
品質の劇的な向上を目指す志はあったか?答えは否である。
圧倒的独占の中で、品質の問題はなかなか語られまい・・・

下手なレポートで結論のないDATAをいくら並べられても何もならない。
川の流れの全てを抑えようとするから、川の周りは淀んでいく。

でも加工屋さんは文句を言えないのである。それほどに材料屋は
少なく、熱処理屋も少ない。選択肢がないので、下手にもめると
指定材があったとき、売ってもらえなくなる。日本の材料で選べるのは
4社くらいか?熱処理屋も同じくらいか?そういう少ない会社で、
顧客のキャッチボールをしているのである。

こういう不思議な業界であるから、顧客から平気で仕事をとる。
それで辞めた人間は、後でその人たちがどれだけ怒っていたか知ることに
なるのである。それが正に今日であった。

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